中小企業実践経営学入門(創業・起業の基礎知識)
著作者 近藤総合研究所(21世紀文明研究所) 近藤章人
現代日本にとって最も重要なことは、全世界を視野に入れて、特定の分野で競争力を持った新しい企業が創造されることです。
グローバル化が進展して、規制が緩和され、世の中が変わったのです。
小売・サービスは地域の中での競争ですみますが、製造業・卸売業は日本だけでなく、外国も視野に入れて経営をしなければなりません。
大企業は日本を本社・研究開発拠点とする多国籍化戦略、中小企業は特定の分野で日本一、世界一をめざすオンリーワン戦略が基本です。
全世界的な激動の変革期であり、日本がデフレの現在においても、ビジネスチャンスはいくらでもあります。
若い人々がさまざまな分野で創業することを期待しますが、創業する専門分野の技術や商品知識だけでなく、業種にかかわりない中小企業経営の基本を同時に身に付けていただきたいと考えます。
成功した企業は、その企業の独自の技術・商品・サービスだけでなく、全業種共通の経営管理ノウハウを持っているのです。
最近はケーススタディも大学でやっているようですが、経営学の理論と実際の経営の現場は少し差異があるように、私は感じます。
そのために惜しげもなく無料で「企業経営の実践的基礎知識」を提供します。
ただし、大失敗は防げたとしても、成功を約束するものではなく、あくまで経営の参考としてください。
万が一、失敗しても苦情は受け付けません。あなた御自身の自己責任でお願いします。
前編 創業編
第1章
独立、創業を決心する前に(勤務先を退職する前に)
1.自分は何か一芸に秀でており、誰にも負けないものを持っているか。
2.自分のもっている知識・技能・資格・サービスは社会的なニーズがあり、新規参入が可能か。採算がとれ、経営として成り立つか。
3.自分が企業のトップにたち、取引先とつきあい、従業員をひっぱっていくことができるか。
4.これから始めようとする仕事は、自分が何よりも好きな事であり、寝食を忘れて仕事をすることが苦にならないか。
1.何が起きても専門家と相談しつつも自分で解決しなければならないので困難を乗り切る強い意思が必要。毎月の生活も保証されないのでその覚悟はできているか。
2.家族の理解と協力は得られるか。
第1章
どこで、何を、誰と、どのように経営するのか
1.どこで創業するか。
2.どのような業種を創業するのか。
3.誰と創業するのか。(自分ひとりか、仲間と一緒か、あまり勧めないが勤務先の部下をつれてか)
4.どのように経営方法で創業するのか。
(同じ業種でも経営方法はいくつかある)
(たとえば、販売業では店でどのように販売するか、配達や通販でするか、
製造業でも必ずしも自前の工場をもたないで外注することもある。
極端な場合はインターネットで全世界に販売することもできる。)
第2章
学歴、職歴、資格、知識・技能を生かして、創業のための準備とおおまかな経営計画の作成する
1.自分の学歴、職歴、資格、知識・技能から独立して経営ができる業種は何かを検討する。
2.その業種についての勤務経験はあるか、知識・技能・ノウハウを蓄積しているか、顧客・取引先などの人脈はあるか。
3.その業種は社会的にみて今後成長する業種か、衰退することはないか。
4.新規参入しても同業他社(大企業や海外の企業も含めて)との競争に勝てるか。新規参入に困難な規制はないか。(農業、運送業、酒屋などは規制あり、新規参入は容易ではない。規制がなくても大資本でないと無理な業種もある)
5.どの業種をどのように経営するのか、おおまかな経営計画を作成する。
6.商工会議所・商工会、地方公共団体など創業支援機関に相談する。
第3章
代表者・経営者が創業する業種の技術を訓練済みであり、経営者としての基礎的知識を取得していることの確認する
1.代表者・経営者はその業種の知識・技能・勤務経験が充分にあること。
2.資格が必要である業種については、代表者・経営者が有資格者であること。従業員任せでは中小企業では成功しない。
3.代表者・経営者は同業他社との競争に打ち勝ち、従業員を一人前に教育することができること。従業員に模範を示すことができること。
4.代表者・経営者はその業界の業界事情、取引慣行を理解しているか。
できれば業界内や関連業種に知り合い・援助者が多いことが望ましい。
5.代表者・経営者は会社の経営に必要な法律、経理、税務、労務など基礎的知識を勉強したか。あるいは勉強中か。勤務者と経営者ではまったく違う。経営の基本的知識と能力がないと経営はできない。(日本国内で一般的な業種を開業する場合は実務的な専門学校レベルでよい。)
6.代表者・経営者は企業の舵取りに必要な経済、経営、文化、流行など社会の変化を的確に把握する鋭い感覚があるか。
7.業界の知識・経験が不足している場合、それを補ってくれる信頼できる会社はあるか。フランチャイズ加盟の場合、先に加盟した人々の現況を見に行き、生の声を聞いてみる。(普通は本部が儲かる仕組みになっている。)
第4章
創業についての詳細な経営計画を策定する。
(はじめは小さくてもだんだん大きくして行こう。)
1.販売計画(誰が、誰に、何を、どこで、どのように販売するのか。)
2.仕入計画(誰が、何を、どこから、どのような条件で仕入れるのか。)
3.売上予測(業種、規模、場所、客単価、回転率などの統計データーを参考として売上を予測する。)
4.資金計画(開業にあたっての資金、開業後企業を維持していくための資金がいくら必要か、どのように調達するか。)
5.収支予測(開業後の収支の見込みを経営環境、業界事情、設備能力、他社との競合状況を考慮して予測する。)
第5章
法人が事業形態の場合、会社を設立する。フランチャイズに加盟する場合は慎重に検討してから契約する。
1.事業形態は個人か、法人か、それぞれにメリット、デメリットがある。
2.法人の種類と特徴を検討。規模・事業計画により選択。
3.株式会社と有限会社
4.合資会社と合名会社
5.フランチャイズの資料を取り寄せ、説明会に参加する。フランチャイズに加盟する損得、どのフランチャイズに加盟するかを慎重に検討する。
6.本部の言うことを信じるだけでなく、先に加盟した人の複数の店舗・営業所を見に行き、経営者に現状を聞いてみる。充分に現状を把握して納得してから加入する。
7.フランチャイズと契約する。
第6章
取引先(販売先、仕入先、外注先)の確保
1.販売先の確保こそ企業でもっとも重要。
(売れなければ企業維持ができない。そう簡単にお客は確保できない。)
2.仕入先の確保により販売する物、生産・加工する物が決まる。
(物余りの今日、安くて良質なだけでなく、多様化した消費者ニーズ
にあわせた物を生産したり、販売したりする必要がある。売れ筋の
商品を他社より有利に仕入れるのは新規開業者には難しい。)
3.自分でできないことは外注先に依頼する。
(新規開業者は設備、技術、資金などの限界があり、せっかくの注文
を断らざるをえない場合がある。断るよりは外注したほうがよいが
リスクは負わざるをえない。)
第7章
自己資金の蓄積と不足資金の借り入れ
1.
創業資金のうち、かなりの部分は自己資金を準備しなければならない。
2.
創業の場合、もっとも融資の可能性があるのは政府系金融機関。
(国民生活金融公庫と開業時から軌道にのっても長いお付き合いをするとよい。金融引締め時に頼りになるし、もしものときも比較的相談にのってくれる)
3.
金を借りるには担保や保証人が必要であることが一般的。まったく実績が無いこれから始める企業の信用はない。(親や義理の親、勤務先の社長、学校時代の先輩・親友など協力者が絶対に必要。)
4.
地方自治体の制度融資が利用できる場合がある。(保証協会付であることが一般的)
5.
技術力が抜きん出ており、事業化のめどがついているベンチャー企業には銀行系などのベンチャー・キャピタルが利用できる場合がある。
6.
事業計画(売上予測、資金計画、収支予測)に基づき返済計画を作成する。資金繰りには余裕を持たせること。
第8章
店舗、工場、事務所、営業用車、什器・備品などの借用または購入、店舗内装・工場設備の建築工事
(設備投資は開業時には最小限とし、利益がでてから追加投資するプランが現実的で安全。)
1.
店舗・工場・事務所の確保、借用か建設か。なお、無店舗販売、工場のないメーカー、事務所が無い企業もある。(これからはインターネットをいかに利用するかがポイントになるだろう)
2.
什器・備品・OA機器・営業用車などの購入。新品だけでなく、中古を利用してもよい。リースを利用することもできるが中途解約ができないなどかえって高くつく場合がある。出費を極力おさえ、無駄なものを買わないこと。
3.
建築の場合は建物全体の建築工事になるが、借用の場合でも店舗内装・工場設備の建築工事が必要である。後で手直しが効かないので充分プランを検討してから発注する。経験豊富な専門業者に依頼した方が安心である。(企画書・図面・見積書を数社からとり、図面だけでなく、自分の足で探したお手本となる店舗等の写真を示して要望を伝えたり、施工業者の建設実績を自分の目で見てきてから契約した方がよい。店舗の場合、内装による店のイメージのみならず、客席をどう配置するかがもっとも重要である。)
第9章
官公庁に対して許認可を取得し、諸届出を実施する
1.法令により許可、認可、登録、指定、届出および認証が必要な業種がある。保健所、警察署、都道府県庁などの指導を受ける。業種によっては簡単には許認可されない業種もあるので注意する。
2.税務関係は税務署等に届ける。社会保険関係は社会保険事務所、公共職業安定所、労働基準監督署に届ける。個人の事業主は国民健康保険・国民年金の適用となるので市町村役場に届ける。
第10章
従業員を確保し戦力となるように訓練する
(開業時は息が合った信頼できる仲間の少数精鋭を原則とする。)
1.自分や家族、勤務時代の同僚・部下など信頼がおける人を縁故で採用する。
2.特定の知識・技能・経験を持った人を人材センターから募集する。OA機器操作や自動車運転免許は最低限必要な能力であり、できれば英語などの外国語の能力も必要である。
3.ハローワークで募集する。広く募集できるが人材の絞込みは難しい。
4.経理・総務・社会保険事務などは人材派遣会社の派遣社員を使用する方法もあるが、高くつく。専門家の指導を受け、外注する方が賢いかもしれない。
5.飲食店などの時間帯が限られている業種、小売店でも商品知識が必要無い業種などはパート、アルバイトを有効活用する。
6.勤務条件を明確にし、採用した場合は雇用契約書を作成する。
第11章
税理士・司法書士・弁護士や業界の実力者など相談できる人々とのつながりをつくる
1.開業にあたってまず信頼のおける税理士に相談する。(知り合いの税理士がいない場合、税務署ごとに税理士会の支部があるのでそこで紹介してもらえる。)
2.法律関係については司法書士・弁護士に相談する。
(税理士が知り合いの弁護士、司法書士を紹介してくれるが、弁護士会
司法書士会で紹介してもらってもよい。)
3.業種によっては業界団体、業種ごとの組合に加入した方がよい場合もあるが、拘束されることもあるのであえて加入しない場合もある。
4.地域の商工会議所・商工会、青色申告会、法人会には経営上の情報が得られ、相談することができるので加入することを勧める。
第12章
開店・開業の実際と広告・サービス
1.開店・開業をしたことをどのように広告し、顧客を確保するか
(新聞にチラシを入れるよりも、自分で一軒一軒手作りのチラシをまいた方が効果的、駅の近くや大通りなどでチラシやティッシュをまいてもよい。)
2.開店・開業時は様子を見に顧客は来るが、その顧客をいかにリピーターにするか。サービスの工夫をする。(開店当日、客が来なくても困るし、来すぎても困る。客の声を出来るだけ聞き、改善できることは改善する。)
後編 経営管理編
第13章
開業後の販売・仕入れ・経理などの諸事務の実施
1.どんぶり勘定ではだめで、帳簿(コンピューターでもよい)をつけよう。
2.何が売れているのか、何が利益をだしているのか、逆に何が売れず、原価われをしているか、詳細に分析しよう。
3.帳簿上利益がでても、資金繰りにつまることがあるので、資金繰りに留意しよう。売上から入金までが、同時か短い方が資金繰りは楽になる。業種にもよるが、顧客がクレジットカードを使うことも勧めよう。
4.売れ行き、仕入れ、在庫のバランスに留意しよう。特に、季節商品、流行物を仕入れすぎないように注意しよう。食品等は賞味期限以内であっても新しい方がよいので品目ごとの仕入れ量に注意する。デットストックや廃棄物を最小限にしよう。
5.赤字でも税金の申告は必要。白色申告ではなく青色申告で合法的に節税しよう。
6.許認可、諸届出をした官公庁の指導に従おう。わからない点は気軽に相談しよう。
第14章
顧客の要望・意見を経営に取り入れよう
1.
「お客様は神様です。」の心がけは絶対に必要。これからそこの地域で商売するのだから、地元の評判は何よりも大切。
2.
クレームをどのように経営に生かすかがその企業が発展できるかどうかの分かれ目になる。何を言われても、喜んで前向きに対処しよう。言いにくいことを言っていただいたお客様に感謝しよう。その場限りの対応ではなく、根本的な対応をしてそのお客様に報告しよう。
3.
何が売れているか、何が利益をだしているか。お客様は何を求めているのか詳細に分析しよう。お客様の要望にあわせた経営をしよう。
4.
品揃え、価格、商品・サービスの質、店員の接遇・言葉使い、開店・閉店時間、納期などお客様からの意見を従業員全員が蓄積してどうすれば改善するかみんなで検討しよう。
5.
顧客サービスカードを作成して、お客様の名簿をつくり、ある程度割引をして顧客の囲い込みを図ろう。新製品の紹介やセールの案内のDMを発送しよう。
第15章
人、物、金の管理が経営の基本
1.
従業員の技能、経験、性格、信用などにより、誰に何をやらせるか、本人の希望も聞いて判断しよう。誰でも納得できる公平な評価に心がけよう。
2.
主要顧客、主要仕入先、金融機関、税理士、弁護士等は人任せにせず、自分で直接対応しよう。とくに主要販売先には個々の定型的な取引とは別に、時々社長自身が行って、販売先の要望を聞いたり、信用状況をそれとなく把握したり、ライバル他社の動きの探りを入れよう。
3.
会社の経理事務を誰にどの程度までやらせるかが問題である。信用がある人に専門的にやらせるしかない。その際にも最終決裁は社長自らが行う。代表取締役印、印鑑証明書、銀行印、手形帳、小切手帳は社長自身がかならず保管する。
4.
店舗の出店、工場の新設・増設、高額機械設備については、景気動向、業界動向、自社の経営状況・資金繰りを税理士、取引先、メインバンク等と相談して慎重に行う。
第16章
売上の増加と利益の確保、資金繰りの計算、手形・小切手に注意、トラブルが起きたときの対応
1.税理士に依頼し、期中にも経理帳票を作成し、経営判断の参考としよ
う。(儲かっているのか、損しているのかわからないようでは経営者と
して失格である。)
2.開店・開業後、売上の増加と利益の確保に留意し、いくら努力しても採算が合わない場合は傷が浅いうちに不採算の事業から撤退し、利益のでない製品・商品は廃止する。
3.売上だけでなく、資金繰りを計算し、資金ショートをしないように注意する。勘定あって銭足らずということがおきる。
4.手形・小切手はできるだけ使用しない。万が一のとき、待ったが効かず、企業維持が可能な程度の利益が出ていても瞬時に倒産になることがある。やむをえず使用する場合も入金をあてにせず、資金繰りに余裕をもたせ、管理をしっかりすることが重要である。振り出された手形を期日までそのまま保管するほど資金に余裕がある企業はほとんどないので、依頼返却は難しい。融通手形は連鎖倒産の危険があるので命取りになる。
5.いくら資金繰りに困っても商工ローンやサラ金の悪質な甘言にのらない。冷静に考えれば自社の利益率より高い高利を返済できるわけがない。
6.設立まもない企業を相手にしてくれる地元の信用金庫、地方銀行などをメインバンクとしよう。政府系金融機関は新規・独立開業でも相談にのってくれる。融資を受けられたら、返済の実績をつけて末永いお付き合いをしよう。ある程度大きくなったら都市銀行をメインバンクとして、信用金庫、政府系金融機関をサブバンクとするとよい。(それぞれ特徴がある)何かのときに助けてもらえるかどうかはメインバンクとの日頃からの取引の実績にかかっている。
7.企業経営にはなんらかのトラブルがつきものである。その際に税理士、弁護士、弁理士、司法書士など専門家に相談しアドバイスが得られるような態勢を日頃からつくっておく。最近では国際的な問題などに対処するため、専門家がグループでアドバイスをすることも多くなってきた。
第17章
企業の成長・拡大と株式の公開・上場
1.
企業の成長・拡大の問題点
企業の成長・拡大にあわせて、社長自身も含め経営者の経営管理能力が向上しているか。中間管理者・技術者ともに人材の育成・確保ができるか。資本の蓄積がすすみ、資金繰りの確保ができるのか。
2.
取締役の選任
企業が大きくなると外部のさまざまな人を取締役にせざるを得ず、創業者・創業家と経営上の対立が生じることがある。幹部に権限を与えすぎると部下をつれて独立しようとするものがでてくる。
3.
株式の公開・上場の損得、安定株主対策
経営者としての大きな目標であり、成功した証で、巨万の富を獲得できる。しかし株式の乱降下や買占めにより企業を乗っ取られる危険性もある。そのようなことがないように株式を持ち合い、安定株主対策をする場合が多いが絶対的に安心はできない。
著作者 近藤総合研究所 近藤章人(著作権所有)
http://21-civilization.com/ 「インターネット情報源ガイド」(日本ネットサーフィンガイド)
akihito-kondo@nifty.com 多忙のため重要な連絡以外はお返事がだせません。
創業や起業をされる方、現在企業を経営されている方が、経営の参考のためにプリントされるのはかまいません。
プリントするだけでなく、「インターネット情報源ガイド」(日本ネットサーフィンガイド)を常時活用して、さまざまな分野の情報を収集することをおすすめします。
しかし、これとほとんど同じ内容を自分が考えたとして発表することは、著作権にふれますのでご注意ください。
紹介、引用は著作物の一般的なルールに従い、出典を明記すれば構いません。
個別の相談は受け付けておりません。経営の相談は地域の商工会議所・商工会に相談することをおすすめします。
個人の確定申告は税理士に頼めない場合は、青色申告会に相談・指導をしてもらうとよいでしょう。
知り合いの税理士、弁護士がいない場合は、地域の税理士会、弁護士会に連絡すれば、相談をしたり、税理士や弁護士を紹介したりすることが可能です。
「インターネット情報源」の中にそれらの情報があります。